くらしに、ひと呼吸

今月のテーマ②言葉の力、生きる力 ~言葉‘を’語る、言葉‘が’語る~

諸刃の剣

 フリーアナウンサーとして30年以上「言葉」に関わり、言葉にとても敏感になりました。そのおかげで、言葉を通して多くの力を得てきました。けれどもそのせいで、ちょっとしたニュアンスを気にするようになり傷つきやすくもなりました。
 みなさんにも、「あの一言で力が出た」という経験とともに、「あの一言で気持ちがなえた」という経験がおありだと思います。
 言葉は「諸刃の剣」。本物だからこそ、力があるからこそ、取り扱い注意なわけです。私たちは、言葉を良きものとして使っていかなければならないと強く思います。

全てが整って…

 声の言葉に関していえば、「言葉は単に記号が音声化されたものではない」ということを押さえておきたいと思います。
 コミュニケーションにおける、言語・聴覚・視覚情報の影響の割合を調査した「メラビアンの法則」によると、人は言語情報(言葉)から7%、聴覚情報(音声・音質)から38%、視覚情報(表情・態度)から55%の割合で影響を受けるとのこと。
 せっかく感謝の気持ちを表す「ありがとう」という言葉(言語情報)を使っても、表情や態度(視覚情報)、口のきき方(聴覚情報)がぶっきらぼうだったら、人は数値的に高い「ぶっきらぼう」の方の情報を優先的に受け取るということ。全てが整ってはじめて、本当の言葉の意味が相手に届くということなのです。

言葉が語る

 では、言語・聴覚・視覚情報が整えばそれで良いのでしょうか。いいえ、例えば「休んだら?」の一言は、頑張り過ぎている人には天使のささやきですが、頑張りたいけれど自信がない人にとっては悪魔のささやきになります。
 つまり、どのような立場の人が、どのような相手に、どのような環境で、どのような表情・態度・音声で、どのようなタイミングで言葉をかけるかで、その言葉の意味が変わってくるのです。
 そう考えると、「言葉はそれを発する人そのものをあらわす」といえるのではないでしょうか。そう、私たちは「言葉‘を’語っている」ようで、実は「言葉‘が’私たちを語っている」のです。

フリーアナウンサー・朗読家 渡辺祥子(わたなべしょうこ)

1991年フリーアナウンサーとして独立。98年より朗読家としての活動を開始するとともに、「言葉の力・生きる力」をテーマとした講演や執筆にも取り組む。著書に『3.11からのことづて』(TOブックス)、『困難を希望に変える力』(3.11を語りつぐ会)、朗読CDに「Brilliant Life」(グロリア・アーツ)。情報誌『りらく』編集長、障がい者の就労をサポートするNPO法人「ほっぷの森」副理事長も務める。

フリーアナウンサー・朗読家 渡辺祥子(わたなべしょうこ)先生