【お知らせ】スコープ9月号特集 アルプス(ALPS)処理水についての疑問回答 (全文)
海を守りたい人 林薫平准教授が答えます
アルプス(ALPS)処理水についての疑問にお答えします(全文)
①アルプス(ALPS)処理水海洋放出に対して、どうして反対しているの?
福島の沿岸漁業は、震災から10年後の昨年、やっと試験操業から次のステージへと進んだばかりで、今、復興に向かう一番大事な時期を迎えています。東電の敷地内のアルプス処理水を保管するタンクの置き場が少なくなってきているというだけの理由で、拙速に一方的な形で海洋放出の方針決定がなされてしまい、なし崩し的に設備の工事が進められていますが、この大事な時期に、漁師さんや水産業に携わる地元の沿岸地域の皆さんを大きく揺さぶることになっています。私は地元の水産業の復興協議に関わってきた者としてより慎重な姿勢による方針の検討を求めています。
②本当に海に流すしかないの?
確かに、東電の敷地内でアルプス処理水を保管するタンクが増えてきて、現在の敷地の使える部分を前提とすれば、廃炉作業を圧迫しつつあるというのは間違いありません。しかし、そこから、東電の責任を一切免除して敷地外に処分してよいというのはあまりにも性急な議論です。さらに、その処分先として、福島県内の海か山か空気か農地か選べという追い込まれた選択肢しか与えられないのは根本から間違っています。政府によって、海洋放出という決定がなされた際に、タンクの置き場が廃炉のブレーキになってきていることが強調され、「復興と廃炉の両立」が掲げられましたが、政府の意図は「廃炉なくして復興なし」というものでした。これは脅迫といってもよいものです。そのため「廃炉」を優先させて「復興」を後回しにする決定に対して強く反対できない図式ができあがってしまいました。原発事故と廃炉に伴って現れてきている膨大な放射性物質の管理・処分問題が、福島県だけの問題になってきています。アルプス処理水は、その先鞭をつけてしまうことになります。
③私たちにできることは何?
今は、政府が、東電の責任を免除して、福島県内に放射性廃棄物を処分していくことに関して、国民に理解を求め、「風評・差別はやめよう」と呼び掛け、それを良識ある国民がなんとか納得しているという形です。しかしそもそも、福島だけに問題が封じ込められている現状を変えて、東電の責任の履行と、国民の主体的な関わりを組み合わせながら、原発事故後の問題や廃炉に伴う問題を解決していく道筋をつけるべきです。宮城県・福島県の側からは、政府に対して、問題を歪め、狭めていくことに反対していくべきです。政府と東電が掲げる「復興と廃炉の両立」は、廃炉の都合によって一方的に言うことができるものではないはずです。むしろ、復興の主体の地元住民・地元事業者たちの意見をしっかり取り入れながら廃炉に向かって進めていくべきであり、それが本来の「両立」であることを明確に主張していくことが必要です。