くらしに、ひと呼吸

子どもの肥満について ~大人が気配りできること~

コロナ太りと子どもの健康

コロナ禍にも落ち着きが見え始めたなかで迎える年末年始。皆様どのようにお過ごしでしょうか。自粛期間を経てコロナ太りがささやかれる昨今、今回は「子どもの肥満」について多角的な視点から考えてみたいと思います。
「健康日本21(第二次)」において、小学5年生の中等度・高度肥満傾向児の割合を減少傾向にする目標を設定しています。厚生労働省から、子どもの肥満が将来の肥満や生活習慣病に結びつきやすいとの報告があったためです。ところが、宮城県の平成27年度の肥満傾向児の出現率は、ほぼ全学年で全国平均を上回っています。男子は11歳で全国1位、7歳児で3位、女子は5歳児で全国1位、8歳で2位という結果でした。
肥満は食事や運動が要因と思われがちですが、それだけではありません。3歳までの睡眠時間が少ない子どもは、10年後の肥満になる傾向が高いことが示されています(文献1)。睡眠時間が少ないと、成長ホルモンの分泌が少なくなり、脂肪分解が抑えられるからです(文献2)。メラトニンというホルモンは朝の光を浴びて14~16時間後に血中濃度が高くなり、入眠を促す役目を果たしています。ところが、夜に明るい環境下では分泌が抑制されて寝つきが悪くなり、睡眠不足により血中のレプチン(食欲を抑えるホルモン)が減少し、グレリン(食欲を促進するホルモン)が増加することで肥満につながると報告されています(文献3)。
さらに英国の研究では、1日3時間以上をテレビやパソコン、ビデオゲームに費やす子どもは体脂肪量が多く、糖尿病の原因であるインスリン抵抗性が高いという結果が発表されました。モニターから発せられるブルーライトはメラトニンの分泌を抑制しやすいことがわかっており、光感受性の影響を受けやすい子どもは特に注意が必要です。特に乳幼児期については、母子との触れ合いを通して基本的信頼感を形成し、愛着につながる大切な時期です。モニター越しではない遊びや自然体験を通して運動能力やバランス感覚を体得し、人と人との関わりを体験する重要な時期でもあります。2011年米国小児科学会は、2歳以下の子どものメディア接触は、教育的・発育に有益である科学的根拠は認められないと発表しました(文献4)。
このように、令和の子どもの肥満原因は複雑で、単純に「食べ過ぎ」や「運動不足」だけでは語れない時代となりました。生活習慣すべてに大人が細やかな気配りをしないといけませんね。


引用文献
(1)関根道和,山上孝司,鏡森定信.富山出生コホート 研究からみた小児の生活習慣と肥満.日本小児循環 器学会雑誌2008;24:589-597.

(2)Landhuis CE,Poulton R,Welch
D,et al.Child hood sleep time and long-term risk for obesity:
a 32-year prospective birth cohort study.ediatrics
2008;122(5):955-960.

(3)日本肥満学会編.小児肥満症診療ガイドライン2017.
ライフサイエンス出版,2017:6263

(4)米国における子ども達の肥満とその対策 ~学校での取り組みを中心に~ Clair Report No. 355 (March 10,2011) (財)自治体国際化協会 ニューヨーク事務所

仙台白百合女子大学
人間学部健康栄養学科
教授
佐々木 裕子

宮城県の長年の課題である「メタボ対策」や「減eco」、「和食」の普及に力を入れて取り組み、生協の食生活学習会でも講師を務める。

仙台白百合女子大学<br>人間学部健康栄養学科<br>教授<br>佐々木 裕子先生