くらしに、ひと呼吸

今月のテーマ①言葉の力、生きる力 ~「言葉」を支えにして~

心の支えとなる言葉

 ある方が言いました。――四国八十八霊場を歩くお遍路さんが杖を持つように、私たちの人生の長い旅路にも杖が必要である。それは言葉の杖、「杖言葉」だ――と。
 皆さんにも、折に触れ自分を支えてくれる「杖言葉」があるのではないでしょうか。 
 ところで、なぜ言葉が人生の旅路の支えになるのでしょう。私なりの実感ですが、その言葉が、受け取った一人ひとりに新たなまなざしを与えてくれるから、だと思うのです。

自分を外へと連れ出す言葉

 私にとっての杖言葉をあげると、筆頭は、かつてインタビューをした際に受けとった矢沢永吉さんの、「すべておれのラインだから」。35億円を関係者に持ち逃げされた時期のこと。もちろん事件の話はできませんが、人生って色々あるよね、との話の延長線上で語られた言葉でした。すべては自分が生きてきた道程(それをラインと言ったのだと解釈しました)で起こったこととし、相手を責めることも言い訳することもなく、自分で自分の責任を取っていく生き方を表す言葉。その覚悟にも似た言葉は、その後私の心の支えとなりました。「なぜ自分だけが」とか、「なぜあの時」などと自分の中に閉じこもってしまいがちな私を、外へと連れ出してくれたのです。

言葉は素敵な贈り物

 なにげない日常の中にも、沢山の心に響く言葉との出会いがあります。例えばテレビからも聞こえてきた、自転車で全国を旅する火野正平さんの言葉。ある神社で自分の干支が八方ふさがりだと確認。その瞬間、「八方がだめなら、九方目を探すもんね~」と言った火野さん。目がひらかれる思いがしました。東西南北ぐるっとふさがっても、上も下もがら空きじゃない!
 それから友人が言った言葉はこうでした。私が放った「一巻の終わりだ~」の叫びに、にっこり笑って「OK!じゃあ、二巻目にいこう!」
 いかがでしょう。何か、「人生、捨てたもんじゃない」って思えませんか!?
 新しい年、言葉の杖をコレクションにしてともに歩んでみてはいかがでしょう。そう、言葉は私たち人間への、ステッキ(素敵)な贈り物なのですから(笑)。

※制作途中に火野正平さんのご逝去の報に接しました。心よりご冥福をお祈り致します。

フリーアナウンサー・朗読家 渡辺祥子(わたなべしょうこ)

1991年フリーアナウンサーとして独立。98年より朗読家としての活動を開始するとともに、「言葉の力・生きる力」をテーマとした講演や執筆にも取り組む。著書に『3.11からのことづて』(TOブックス)、『困難を希望に変える力』(3.11を語りつぐ会)、朗読CDに「Brilliant Life」(グロリア・アーツ)。情報誌『りらく』編集長、障がい者の就労をサポートするNPO法人「ほっぷの森」副理事長も務める。

フリーアナウンサー・朗読家 渡辺祥子(わたなべしょうこ)先生