くらしに、ひと呼吸

心が折れた時の動かし方

困難な出来事に出会った時、心は固まり動きを失ってしまうことがあります。今回はそのような時の心の澗滑油の話です

先が見えない時は立ち止まりましょう

大切にしていたものを失った時、心は暗闇の中に入り込み出口が見えなくなります。しかし暗闇でも時間がたつと目が慣れてくるように、心も次第にショックに慣れ、自分の状況を判断できるようになってきます。その時起きる思いが「どうして自分が」という葛藤(心の中の戦い)です。葛藤はストレスとなって心身に悪影響をもたらすため、できるだけ早く葛藤から抜け出すことが必要です。まず自分の足元に目を向け、なくしていないものを整理してみましょう。失われたものに意識が向かいがちですが、自分の心にはたくさんの財産が残っています。

足元を見て一歩ずつ進んでみましょう

今日つらくても明日もつらいとは限りません。まず足元(今できること)に集中すること、「今を生きる」考え方で、とりあえず一歩だけ歩みを進めてみましょう。一歩ができたらまた一歩と、頑張らず少しずつ進んでいきます。続けている間に困難を乗り越える心構えが生まれてきて、現実を受け入れる余裕も出てきます。私たちは一人で生きているわけではありません。そばには家族や友人がいます。周囲からの励ましを受けていることに気づくことで、出口の見えない不安は和らいでくるでしょう。

目標のイメージを作り直しましょう

日常の小さな目標は常に無意識に修正しながら生活していますが、大切な目標を見失うと未来のイメージが消えて行動できなくなり、大きなストレスとなります。新しい目標を早く見つけられると幸いですが、深い心の傷を負った時はなかなか出口が見つかりません。そんな時は「自分の役割」を探してみましょう。誰もがそれぞれの役割を持って生きています。「役割」は家庭での役割、社会的役割、先に生きる者としての役割など、なんでもよいと思います。自分で見つけた役割は「心の明かり」となって進む方向を教えてくれるでしょう。役割に気づけばあとは一本道、その道を進んで行けばトンネルの出口が見つかります。

詞(ことば)や歌で潜在能力を引き出しましょう

古人が残してくれた故事成語などの詞には、私たちに知恵や勇気を与えてくれるものがたくさんあります。また身近な歌にも勇気を与えてくれる多くの曲があります。心が沈んで動きが鈍くなった時、知っている言葉や歌を思い出し、何度も口ずさんでみましょう。古人の言葉や懐かしい歌から伝わる『エール』で潜在能力が働き出し、前に進む勇気が湧いてくることでしょう。

齋 恒夫 院長

日本医師会産業医、精神科専門医(日本精神神経学会)。独立法人労働者健康安全機構 宮城産業保健総合支援センター相談員。メンタル疾患でのさまざまなケアや診療を行っている。

齋 恒夫 院長先生