くらしに、ひと呼吸

もっと知りたい腸内細菌のこと その3 高齢者の腸内細菌

健康寿命の延伸に腸内環境を整えることがカギ?

健康で長生きは誰もの願いですが、健康的に生活できる期間を示す「健康寿命」は、女性が75.38歳、男性は72.68歳(2021年 厚生労働省報告)とされており、平均寿命までの約10年はなんらかの要介護状態にあります。せっかくの人生を、元気に思うように楽しみたいものです。

日本人の腸内細菌の傾向

腸内細菌は、食事によって摂取した食品成分をエサに増殖するため、どんなものを食べているかによって腸内環境は左右されます。日本人の腸内細菌は、①炭水化物の代謝機能が高い(有用な効果をもたらす栄養素である短鎖脂肪酸を生成する)、②ビフィズス菌が多い(腸内環境を健全に保つ)、③水素を酢酸生成に消費(体に役立つ方向で利用されている)、④海藻を分解する酵素が多い(含まれる栄養素を効率よく吸収する)といった4つの特徴があります。

加齢による変化

出生後、腸内に定着した腸内細菌の種類は大きく変化することもなく推移しますが、老年期に入ると急激に有益菌と言われるビフィズス菌などが減少し、大腸菌やウェルシュ菌などの病原菌性の強い細菌が増えてきて腸内環境は大きく変化します(図1)。

短鎖脂肪酸産生菌を増やすことが健康寿命を延ばす鍵

長寿者の腸管に多いことが知られている短鎖脂肪酸は、酢酸、酪酸、プロピオン酸などがあり、腸管内で腸内細菌による発酵によって作られます。酢酸は、腸管内を殺菌力に優れた弱酸性に保ちます。酪酸は大腸粘膜にある上皮細胞の重要なエネルギー源となり、粘膜を丈夫に保ち病原菌やウイルスが体内に侵入するのを防ぎます。プロピオン酸は血中コレステロールを減らす役割も持っています。

健全な腸内環境を保つための食生活

①脂肪の摂りすぎを見直しましょう。高脂肪食の人はインドールなどの毒素が糞便中に多く含まれていることが報告されています。
②食物繊維をたっぷり摂取する。野菜や果物、きのこ類、海藻などを意識してたっぷりとりましょう。ビフィズス菌などの有益菌のエサとなり増殖に貢献します。
③EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)を多く含む青魚は、腸管粘膜を守り有益菌が増えやすい腸内環境に整えてくれます。

仙台白百合女子大学
人間学部健康栄養学科准教授
相澤 恵美子

東北大学大学院医学系研究科医科学専攻行動医学分野博士課程修了 博士(医学)。
研究分野は「腸内細菌と栄養、精神栄養、健康寿命を伸ばすための栄養」。

仙台白百合女子大学<br>人間学部健康栄養学科准教授<br>相澤 恵美子先生